PIPとリストラ


PIPにかけられた場合、退職せざるを得ないのか?

能力不足及び従業員としての適格性欠如を理由とする解雇の場合、再三の指導・教育や研修機会の付与によっても容易に是正されないこと、及び業務遂行に支障が生じていることを要すると考えられており、裁判所も能力不足による解雇をなかなか認めていないのが現状です。

そこで、昨今、海外のグローバルカンパニーを中心に開発された人材育成プログラムの一つであるPIP(Performance Improvement Plan=業績改善計画)を悪用して、リストラの道具として使う企業が出てきました。

PIPとは

PIP(Performance Improvement Plan=業績改善計画)とは、成績不振とみなされた従業員に対し、指導の一環として、一定の期間を設定した上で、上司と部下が具体的な業績目標や取るべき行動(アクションアイテム)等を設定し、お互いにその進捗状況を密に確認しながら進めていくという、改善指導の一手法です。
企業によってその内容は異なりますが、中には、「PIPが未達成の場合、解雇する場合がある」との規定を設けている場合があります。

これは、昨今、日本でも広く導入されている成果主義における業績評価制度とリンクする制度であり、本来は、従業員個人の業績改善を図ることを目的としたものであり、外資系企業を中心に、日本企業にも徐々に広がってきたものです。

PIPの悪用

しかし、このPIPをリストラの道具として悪用する企業が出てきました。
すなわち、企業が社員を退職に追い込むために、業務命令としてPIPの対象とし、業務改善指導の一環として達成困難なノルマを与え、PIPの未達成を当該社員に突きつけて、自ら退職届を出させるよう仕向ける、といった事例が出てきました。

通常、「あなたは他の会社で活躍の場を見いだした方がよい」「あなたのスキルに見合う仕事がない」などと言って、退職勧奨が行われるのですが、退職勧奨を受けた社員の方は、これらを言われたからといって、なかなか退職勧奨に応じるわけではありません。
しかし、PIPにおいて、ノルマを達成できなかったという明確な事実を突きつけられた場合、社員は、プライドを傷つけられ、“会社に残る”という選択はしづらくなり、自ら退職に追い込まれてしまうということになるわけです。

このように、PIPは、本来は業務改善指導の一環として導入された適法な制度であったものの、それを悪用する企業が出現し、形を変えて退職強要の一手段として使われ、職場によっては、「PIPにかけるぞ」といった脅し文句にも使われるようになったと言われています。

PIPに基づく解雇は果たして有効なのか

そこで、PIPが達成できなかったことを理由に解雇された場合、その解雇は有効となるのでしょうか?

この点を判断したのが、東京地裁平成24年10月5日判決、東京高裁平成25年4月24日判決(ブルームバーグ・エル・ピー事件)です。

この事案では、第1回PIP、第2回PIP、第3回のPIPが実行され、第2,3回目のPIP開始時には、当該従業員に対し、パフォーマンスと勤務態度について基準を遵守せず、期待されるパフォーマンス・レベルなどに達しない場合には、解雇を含むさらなる措置を受ける可能性があることを警告されていたという事案です。

この事案において、裁判所は、PIPの命令及びPIPの未達成の事実に格別の意味を見いだすことなく、勤務能力ないし適格性の欠如を理由とする解雇の従来の裁判所の判断枠組みで判断しました。

すなわち、裁判所は、
「職務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇に「客観的に合理的な理由」(労働契約法16条)があるか否かについては、まず、当該労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかった否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきである。」
との判断を示しました。

この事案において、原告は、PIPにおいて設定された配信記事本数に係る課題について、「全て達成し、ムーバ-記事についても、第1回PIPにおいては目標数に遠く及ばなかったものの、第2回、第3回の各PIPにおいては目標数を達成するか又はそれに近い数値に及んでおり、この点についての被告の指示に従って改善を指向する態度を示していたと評価しうる。」として、記事本数の少なさを解雇事由とすることは、客観的合理性があるとはいえないとの判断を示しました。

まとめ

以上のとおり、裁判所は、PIPの未達成を理由に、能力不足および適格性欠如による解雇の有効性を直ちに認めるような判断を示していません。従って、PIPの対象とされること自体は、会社側の広い裁量により業務命令でなされるため、なかなか拒否しえないものの、PIPの未達成のみを理由に解雇されたり、退職に追い込まれるというのは、その有効性について疑問があると言わざるを得ないと思います。

よって、PIPにかけられたとしても、必要以上に「解雇されるのでは」と萎縮することはないのであり、さらに、自ら退職届を出さなければならないというものでもありませんので、その旨留意する必要があります。

 

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