有期労働契約の締結のポイント
1.労働契約法の改正
長引く不況のため、企業は正社員(期限の定めのない社員)の採用を極力控えるとともに、非正規と呼ばれる契約社員や派遣社員、嘱託、パート、アルバイトなどの有期労働契約の社員を増やしています。これらの有期労働契約については、有期契約の下で生じる雇止め(期間満了に基づく契約の解除)や正社員に比べて低い賃金など、不合理な労働条件が社会問題となっています。
そこで、こうした問題に対処し、非正規社員が安心して働き続けることができる社会を目指して、平成24年8月10日、以下のとおり、労働契約法が改正されました。
【主な改正ポイント】
① 無期労働契約への転換
有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されます。また、6か月以上の空白期間(クーリング期間)を設けることによって、通算5年のカウントをリセットすることができます。
②「雇止め法理」の法定化
最高裁の判例で確立した「雇止め法理」がそのままの内容で条文化されました。
すなわち、当該有期労働契約が、①無期契約と同視できる場合、又は②有期契約であるものの雇用継続の合理的期待がある場合には、無期契約(正社員)の場合と同様に、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)が類推適用されます。
③ 不合理な労働条件の禁止
有期契約労働者と無期契約労働者との間で、不合理な労働条件の相違を設けることを禁止しました。
2.有期労働契約を締結するに当たって留意すべきポイント
上記の労働契約法の改正点及び従前から存在する有期労働契約における問題点等を踏まえ、会社側として有期労働契約を締結するに当たって留意すべきポイントは、以下のとおりです。
① 当初の契約期間をどのように設定するか
② 通算5年を超えないように留意すること
③ 更新の期待を抱かせるような言動は控えること
(1)当初の契約期間をどのように設定するか
有期労働契約の期間については、原則3年とされ(この3年というのは、一回の契約における契約期間を意味するのであり、何度も更新することは可能です)、公認会計士、医師、弁護士、薬剤師など「専門的な知識、技術または経験であって高度なものを有する労働者」を当該業務に従事させる場合、及び満60歳以上の高齢者にかかる場合については、5年とされています(労働基準法第14条)。なお、労基法では、有期労働契約の期間の上限を定めるのみで、下限は定められていません。但し、労働契約法第17条2項では、「必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」とされています。
また、よく見逃されるポイントなのですが、有期労働契約においては、基本的に契約期間中の雇用(労働)が保障されていることから、使用者・労働者のいずれも「やむを得ない事由」がない限り、中途解約をすることができません(民法第628条)。この「やむを得ない事由」とは、一般的に、雇用契約の継続に重大な支障がある場合を指し、労働契約法第16条の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められる場合よりも狭いと解されています。
そこで、一度有期雇用契約を締結してしまったら、使用者も労働者もその契約期間中は「やむを得ない事由」がない限り、当該契約に拘束されてしまうこととなります。経営者としては、契約期間を短期に設定してしまうと、結局何度も更新を行うこととなり、労働者に「更新の期待」を生じさせ、雇い止めが難しくなるおそれがでてきます。これに対し、契約期間を不必要に長期に設定してしまうと、契約期間中は中途解約が困難であるため、期間満了まで雇い止めを待たなければならないこと、労働者が自己都合により退職したいと考えた場合でも、「やむを得ない事由」がない限り辞めることができず、会社側と紛争となることもあります。
従って、経営者としては、上記の様々なリスクを考慮し、長すぎず、短すぎない契約期間を設定することが重要になるといえます。
(2)通算5年を超えないように留意すること
労働契約法の改正により、有期労働契約が通算5年を超えた場合には、無期契約に転換されるという制度が導入されました。この5年のカウントは、施行日以後に開始する有期労働契約が対象とされています。現在のところ、施行日は公表されておりませんが、今後は、各有期契約の通算期間に留意する必要があります。
この無期契約への転換は、「労働者の申込み」が要件となっており、「通算契約期間が5年を超える場合に、その契約期間の初日から末日までの間に」、無期転換の申込みが可能となります。
例えば、3年契約を締結した場合、1回目の更新をした日(4年目)から無期転換の申込みが可能となるため、この申込みが行われると、使用者がその申込みを承諾したものとみなされるため、(当該有期契約が満了した日以後の)無期労働契約が成立してしまうことになります。
したがって、当該有期契約を更新し通算5年を超えるような場合(例えば、1年契約の場合には1年契約を5回繰り返し、5回目の更新を行う場合)には、無期契約に転換するリスクがあるので、安易に更新しないよう留意する必要があります。
(3)更新の期待を抱かせるような言動は控えること
労働契約法の今回の改正により、これまで判例法理として認められていた「雇い止め法理」が実定法化されました。実務上は、従前の判例法理が条文に取り込まれただけなので、この改正に従って、対応を変える必要はありません。
経営者としては、雇用の調整手段の一つとして、有期契約の雇い止めを確保しておくことは非常に有効であると言えます。そこで、会社としては、この雇い止めが将来的に制限されることのないよう、(実際はケースバイケースとなりますが)以下のような対応が必要となります。
具体的には、①有期契約の更新の際には、自動更新とはせずに、きちんと契約書を取り交わすこと、②次回以降も更新があり得ることを示唆しないこと、③有期契約社員には可能な限り基幹的業務ではなく臨時的な業務に就かせること、④不必要に契約を更新しないこと、などが重要となります。
いずれにしても、経営者としては、更新の期待を抱かれないよう、その言動には十分留意してください。
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